10年以内に母国に帰る人は、国民年金の支払損になるんじゃないの?
ご存知の通り、短期在住の外国人であっても、日本の国民年金への加入義務があります。
しかし、留学生や労働者など、数年単位で帰国することが想定される外国人にとって、国民年金の支払損は深刻な問題です。
国民年金の中でもっとも重要と考えられる、老齢基礎年金の受給資格である10年間の払い込みを行えず、納めた保険料がムダになるのではないか?という問題ですね。
これに関して言えば、外国人の方に考えていただきたいことが3点あります。
- 国民年金保険料には、障害基礎年金の受給権も含まれている
- 国民年金保険料の免除等申請を行えば、負担を減らすことができる
- 将来的に帰国しても、保険料の一部は戻ってくる
①については、老齢基礎年金だけではなく、それ以外の保障も含まれていることを、きちんと理解しておきましょう。
とくに事故などによって負った障害に対して保障がされる点は、しっかりと知っておく必要があります。
②についても、国民年金の免除等申請を行うことで、保険料負担を軽減することが可能です。
留学生の方と労働者の方では、利用する免除等申請の制度が異なりますから、利用前にチェックしておきましょう!
国民年金保険料の免除等については、別記事に詳細をまとめました!
もしも、来日してから10年以内に母国に帰国してしまうと、老齢基礎年金部分の支払額は支払損になります。
このような外国人を救済する目的で設定されたのが、『脱退一時金』という制度です。
この記事では、脱退一時金制度の利用方法や、注意点などをお伝えしていきます!
◆ 脱退一時金を受け取るための条件は?
◆ 脱退一時金の金額はいくら?
◆ 脱退一時金を受け取るための手続きは?
1.脱退一時金を受け取る条件
(1)脱退一時金を受け取るための基本要件
脱退一時金を受け取るためには、次の要件をみたす必要があります。
- 日本国籍を有していないこと(外国人であること)
- 国民年金被保険者の資格を喪失してから、2年以内の請求であること
- 請求時点で日本に住所を有していないこと(日本に住民票がないこと)
- 日本にいる間に、年金の受給要件をみたしていないこと
日本国籍であること
これは言葉のままです。特に注意点はありません。
国民年金被保険者の資格を喪失してから、2年以内の請求であること
『国民年金被保険者の資格を喪失』とは、海外転出届を提出し、住民票を抜くことです。
外国人が海外転出届を提出すると、自動的に国民年金被保険者ではなくなるんです。
つまり、海外転出届を提出した日から2年以内に、脱退一時金を請求しなければならないということです。2年を超えてからの請求は、一切受け付けてもらえませんので、注意しましょうね!
海外転出届の提出については、こちらの記事をお読みください!
請求時点で日本に住所を有していないこと
外国人が、請求時点で日本に住民票がないことが、脱退一時金受け取りの要件です。
住民票を抜くためには、『海外転出届』を提出しなければなりません。
注意が必要なのは、『海外転出届』を提出せず、再入国許可(みなし再入国許可を含む)を受けて、出国した場合です。
この状態は、日本国からすれば、『日本に住んでいる外国人が、一時的に海外に出国している』だけと認識されます。
この場合、再入国許可(みなし再入国許可を含む)の期間が過ぎても、日本に外国人が戻ってこなければ、住民票が削除されます。
つまり、再入国許可(みなし再入国許可を含む)の期間が過ぎなければ、脱退一時金を請求できないということですので、十分に注意しましょう!
◆ 再入国許可を受けた場合の、脱退一時金請求期限は?
この場合には、再入国許可の有効期間(みなし再入国許可期間)が経過した日から2年間、脱退一時金を請求することができます。
日本にいる間に、年金の受給要件をみたしていないこと
今までに国民年金の受給要件をみたしていないことも受給要件です。
老齢基礎年金はもちろんですが、障害基礎年金の要件をみたしていても、脱退一時金を受け取ることができません。
国民年金の受給要件
(2)国民年金保険の被保険者期間が6ヵ月以上
国民年金から脱退一時金を受け取るためには、国民年金の被保険者期間が6ヵ月以上でなければいけません。
国民年金の被保険者期間は、以下の算式で計算してください。
保険料納付済み + 1/4免除期間×3/4 + 半額免除期間×1/2 + 3/4免除期間×1/4
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6ヵ月以上であれば、脱退一時金の受取りが可能
どうでしょう? それほどむずかしくないですよね!
それでは、具体例を使ってイメージをつかんでいきましょう。
具体例 以下のケースの場合、国民年金の納付期間は何ヵ月?
- 全額納付期間:1ヵ月
- 4分の1免除期間:4ヵ月
- 半額免除期間:2ヵ月
- 4分の3免除期間:4ヵ月
解答
1ヵ月 + 4ヵ月×3/4 + 2ヵ月×1/2 + 4ヵ月×1/4 = 6ヵ月
☞6ヵ月『以上』なので、脱退一時金を受け取れます
ポイントは、国民年金の免除等申請を行っていても、脱退一時金の受給資格がある点ですね。
よほどのことがない限り、脱退一時金の受給資格は満たせると思いますよ。
(3)厚生年金の加入期間が6ヵ月以上
実は、厚生年金に加入していた外国人も、脱退一時金を受け取ることができますよ。
厚生年金の脱退一時金を受け取るためには、厚生年金の加入期間が6ヵ月以上であることが必要です。
障害一時金を受け取っていた場合、脱退一時金は受け取ることができません。
2.脱退一時金の金額
実際にはあなたが計算するわけではありませんが、脱退一時金がいくらくらいもらえるのかをチェックしたい方も多いと思いますので、参考にしてみてください!
(1)国民年金の脱退一時金
国民年金の脱退一時金は、国民年金の被保険者期間に応じて、受け取れる金額が変わります。
受け取れる脱退一時金の金額は、以下の通りです。
最大の注意点は、36ヵ月以上の納付期間の場合、脱退一時金として受け取れる金額は、すべて同額とされてしまうことです。
脱退一時金の要件は緩いのですが、金額上限に関してはかなり厳しめといえるでしょう。
(2)厚生年金の脱退一時金
厚生年金の脱退一時金は、次の算式によって計算されます。
3.脱退一時金の請求について
(1)脱退一時金の請求方法
請求場所
基本的には、国民年金も厚生年金も、『日本年金機構』に請求します。
ただし、共済組合等(たとえば私学共済)に加入していた外国人で、最後の所属先が共済組合等だった場合には、脱退一時金の請求先は、『共済組合等』になります。
日本年金機構への請求方法
次のいずれかの方法により、脱退一時金を請求してください。
郵送による請求の場合には、以下の書類添付を忘れないように気を付けましょう!もしも書類に不備があると、返送されてしまいますよ。
- パスポートの写し ☞氏名や国籍等が確認できるページ
- パスポートの写し ☞最後に日本を出国した日付が確認できるページ
- 脱退一時金請求書に銀行の証明印を受ける
- 国民年金手帳、その他基礎年金番号が確認できる書類
②は、帰国前には準備できないはずですので、出国前に市区町村へ行き、以下の書類を取得して、脱退一時金請求書に添付してください。
転出予定日の前日までに書類取得する場合 |
日本国外に転出予定であることが明らかになる住民票の写し ※日本年金機構への郵送物到着は、転出予定日以後になるようにしてください |
転出予定日以降に書類取得する場合 | 住民票の除票 |
③は、以下の内容が証明できる書類添付(銀行発行の証明書等)でもOKです。
- 銀行名
- 支店名
- 支店の所在地
- 口座番号
- 請求者本人の口座名義
日本国内の銀行での受取りは、口座名義がカタカナでなければいけません
ゆうちょ銀行での脱退一時金の受取りはできません
(2)脱退一時金を請求する前に
脱退一時金を受け取ることが、必ずしもプラスの方向に働くとは限りません。
ここでは、脱退一時金を受け取る前に確認していただきたいポイントを、2つお伝えしてきます!
ポイント1 将来的に日本へ戻ってくることはありませんか?
脱退一時金を請求する前に、将来的に日本へ戻ってくることはないか、よく考えましょう。
脱退一時金を請求すると、『日本での国民年金保険の納付実績がリセット』されてしまいます。
もし、脱退一時金を請求しなければ、『日本での国民年金の納付実績はキープ』されます。
国民年金の老齢基礎年金の受給要件は、10年(120ヵ月)以上の保険料納付実績です。将来的に日本へ戻ってくる可能性が高いなら、脱退一時金は請求しない方がお得です。
ポイント2 日本と社会保障協定を締結していませんか?
あなたの母国は、日本と『社会保障協定』を締結していないでしょうか?
社会保障協定とは、あなたの母国と日本、2つの国で保険料を二重に支払う必要がないように、調整する二国間協定のことです。
また、そうすると、片方の国の保険料しか支払わないことになりますが、将来的に帰国すると、母国の年金受給の要件などで不利を被る可能性がありますよね?
そこで、社会保障協定は、日本での国民年金加入期間を、母国の社会保障制度の加入期間とみなすという保障内容もあります。
社会保障協定の内容
- 二国間での保険料の二重支払防止
- 二国間の年金加入期間を通算
脱退一時金を請求する際に、考えていただきたいのは②の内容です。
先ほど、ポイント1でお伝えした通り、『脱退一時金の受取り = 日本での加入実績リセット』でしたよね?
つまり、社会保障協定を結んでいたとしても、脱退一時金を請求してしまうと、母国の年金加入実績としてカウントされなくなるのです。
イギリス・韓国・イタリア・中国の4ヵ国は、『保険料二重加入防止』のみの締結で、『年金加入期間の通算』は行われません。
4.脱退一時金で年金支払損を減らそう! ~まとめ~
国民年金保険料は、外国人も支払わなければならない
☞免除等申請も可能。
☞10年払わないと、老齢基礎年金部分は支払損 = 脱退一時金
脱退一時金は、海外転出届を提出してから2年以内に請求する
☞『転出届未提出+再入国許可』は、再入国許可期間中の請求負不可能
☞国民年金も厚生年金も、請求先は日本年金機構
脱退一時金を請求する前に、2つのポイントを確認する
①将来、もう一度日本で生活する可能性
②母国と日本の社会保障協定締約内容
いかがでしたか?
外国人であっても、国民年金保険料は支払う義務はあります。
でも、『必要性のない部分』まで支払う必要はありませんよ!その部分については、ちゃんとお返ししますよ!というのが『脱退一時金』制度です。
制度の趣旨を理解することで、結果として国民年金をお得に利用できるようになります。
脱退一時金を受け取るかどうかについても、よく検討してから行ってくださいね!
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました!