2019年4月に、「介護・建設・農業・造船・宿泊」などの単純労働14分野での外国人材を受け入れる在留資格「特定技能」が創設される予定です(されました)。
これは、3K職種分野における未曽有の人手不足に対応する目的で行われるもので、外国人材はなるべく高度人材に限るという「建前」を崩す、大きなインパクトがあります。
政府は、2050年までに同分野の外国人労働者を50万人もの規模で受け入れることを目標として掲げています。
そんな中、次のようなニュースが入ってきました。
外務省は外国人労働者の受け入れ拡大に備え新たな日本語能力テストをつくる。日本で働く労働者が職場で円滑に意思疎通する実践的な力を重視する。外国人材の受け入れ条件にも新試験を使う方向だ。2019年4月にも始める方針だ。(日本経済新聞朝刊.2018.10.8引用)
2019年4月に、外国人材を取り巻く環境は一変しますが、今、いったい何が起こっているのでしょうか?
今回は働く外国人向けの、新しい日本語能力試験が創設されるニュースについて、なるべく俯瞰的な観点から解説していきます。
2018.12.12追記
以下のような報道がありました。まずは『特定技能』受け入れ国に限る運用となります。
19年4月の新制度開始時は8カ国のうち、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国が決まっており、残り1カ国は調整を続けている。専用の日本語試験を設けて、新たな労働者の受け入れを始める。4月以降、順次拡大する。(日本経済新聞朝刊.2018.12.12引用)
2018.12.18追記
『特定技能』として受け入れる国が9ヵ国になりそうですね。
本記事の外国人労働者向けの日本語テストは、まずこの9ヵ国を対象として行います。
新在留資格による受け入れ対象は当面、9カ国とする。当初はベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国に1カ国を加えた8カ国を予定していたが、ネパールとモンゴルを加えた。来年3月までに9カ国と協定を結ぶ。(日本経済新聞朝刊.2018.12.18引用)
1.従来の日本語試験の限界
日本語能力試験(JLPT)とは?
日本語を母語としない日本語力測定試験はいくつかありますが、その中で最大規模の試験は、日本語能力試験(以下、JLPTといいます)というものです。
JLPTは、日本だけでなく世界中で受験することが可能で、N5からN1(N1が最上位)の5段階で日本語能力を認定する試験です。
N1の日本語力はかなり高く、ホワイトカラーとして働く外国人は、基本的にN1を取得している人が多いですね。
公益財団法人日本国際教育支援協会と独立行政法人国際交流基金が主催していて、公的な日本語試験として位置づけられており、在留資格の取得要件にもなっています。
言語の4技能
言語学習については、以下の4技能に学習要素を分解することが可能です。
- 話す(Speaking)
- 聞く(Listening)
- 書く(Writing)
- 読む(Reading)
JLPTは、このうち「聞く」「読む」スキルを測定することに特化した試験です。
では、「話す」「書く」はどのように測定するのかというと、これは日々の日本語学校等で鍛えて、評価する以外に方法はありません。
話す(Speaking)が一番大切なのでは?
言語の目的はコミュニケーションであり、コミュニケーションの手段として最も発達しているのが”会話”になります。
その意味で、「聞く(Listening)」能力は必須なのですが、「話す(Speaking)」能力も同じくらいに重要であるはずです。
にもかかわらず、なぜ「話す(Speaking)」スキルの測定がないのか?いくつかの理由を挙げてみます。
- 「話す(Speaking)」能力の評価基準を可視化することがむずかしい
- むずかしい開発を行う場合、開発コストが上がる(大体3倍)
- 実施する場合にも、人的コストの問題が生じる
- JLPTがコミュニケーション力の測定を目的とした試験ではない
JLPTの歴史をひも解くと、在留資格の認定要素としての側面や、留学生の受け入れ評価の一つとして用いられてきた側面が少なくありません。
つまり、日本語を理解する能力に乏しい外国人をふるいにかける意味が大きいわけです。
ですから、出題範囲はなるべく幅広い日常生活の日本語になりますし、日本語がどれだけ理解できているのかを問う傾向になりやすいのです。
コミュニケーション能力を図るのではなく、日本語に対する受動的理解力をより重視したテストであるといえるでしょう。
JLPTの3つの問題点
JLPTの問題点は、以下のような部分に集約されるでしょう。
- 中国などの漢字圏受験生が圧倒的に有利
- 会話力の測定を行うことができない
- 専門的な職業分野の語彙は身につかない
JLPTは、「読む(Reading)」スキルが重視されますので、中国や台湾など、日常生活で漢字を利用する受験生が圧倒的に有利です。
また、幅広い日常生活の語彙力を確かめる目的ですから、専門的な職業分野の語彙力は身につきません。別途学習する必要があります。
2.新しい日本語試験は、技能実習と特定技能向け
外国人労働者向けの日本語試験が必要
TITP(技能実習制度)や、新しい在留資格である『特定技能』による外国人ブルーワーカーの受け入れは、今後加速度的に進んでいくことが予想されます。
もちろん、働く場所は日本になりますから、日本語スキルはとても重要です。
しかし、外国人労働者向けの日本語試験として、JLPTが不向きであることは、以下の点からも明らかです。
- 外国人労働者は、東南アジア・南アジア(非漢字圏)から来る人が多い
- 日常会話より、職業分野の語彙を習得することが望ましい
- 「聞く(Listening)」だけでなく、「話す(Speaking)」も重要
日本で就職を希望する外国人は来日前に受験できる。まずベトナムやフィリピンなど東南アジアで始める予定だ。(日本経済新聞朝刊.2018.10.8引用)
19年4月の新制度開始時は8カ国のうち、ベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国が決まっており、残り1カ国は調整を続けている。専用の日本語試験を設けて、新たな労働者の受け入れを始める。4月以降、順次拡大する。(日本経済新聞朝刊.2018.12.12引用)
新在留資格による受け入れ対象は当面、9カ国とする。当初はベトナム、中国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマー、カンボジアの7カ国に1カ国を加えた8カ国を予定していたが、ネパールとモンゴルを加えた。来年3月までに9カ国と協定を結ぶ。(日本経済新聞朝刊.2018.12.18引用)
※当面は『特定技能』の対象国のみで実施するとされました。
日常生活や取引先との会話で必要な語学能力を測定する。電話応答やスケジュール確認など仕事で必ず使用する語彙・表現の習得を確認する。(日本経済新聞朝刊.2018.10.8引用)
「話す(Speaking)」については先送り
4技能のうち、「話す(Speaking)」の重要性と、試験実装の困難性については、先ほどお話した通りです。
では、新しい日本語試験では、どのような取り扱いになったのでしょうか?
出題はリスニングとリーディングの2種類。将来的にはライティングとスピーキングを加える可能性もある。(日本経済新聞朝刊.2018.10.8引用)
これは、評価基準を可視化して統一することがむずかしく、また、コストもかかるといったことが、見送りが決定された要因であると推測されます。
「書く(Writing)」については、通常我々はPCや辞書で調べながら文章を書くのに、なぜテストではそれらを使用できないのか?
通常と異なる環境で行うテストの意味は薄いのではないか?
このような考え方の元、近年では実施しない言語テストが増えています。
新しい日本語試験への期待
新しい日本語試験がうまく稼働すれば、来日する外国人ブルーワーカーは即戦力として活躍できる可能性が高まりますし、業務上の安全もより確保されるようになるでしょう。
外国人ブルーワーカー受け入れには、賛否両論あると思いますが、国が受け入れに対して本気である以上は、その対策も本気で行っていただく必要があると思います。
その意味で、新しい日本語試験の創設は、政府の本気度の表れの1つであると評価できるでしょう。
技能実習と特定技能については、こちらの記事をご覧ください。
3.一丸になって日本語プロジェクトに取り組めるか?
政府は今回の件、一つ大きな役割を果たしましたが、このプロジェクトを成功させるためには、各省庁や関係団体の協力も必要不可欠です。
ビジョンを共有し、一つのゴールに向かって進んでいく必要があるということです。
疑問「はたして予算22億円は妥当なのか?」
19年度予算の概算要求に必要経費として22億円を計上した。国際交流基金などが試験をつくり、国内外で実施する。(日本経済新聞朝刊.2018.10.8引用)
一つ疑問があるのですが、「予算の22億円は妥当」なんでしょうか?
というのも、日本語試験を開発するだけなら、おそらく1億円もあれば可能です。「話す(Speaking)」を実装したとしても、3億円あれば十分でしょう。
ちょっと調べていただくと分かりますが、国際交流基金は、外務省官僚の天下り先です。
本当にこんなマインドで成功できるのか?これは、はなはだ疑問です。
◆ 外務省はイニシアチブを取りたがっている!?
2019年の外国人労働者大改革において、外務省がイニシアチブを取りたがっているんじゃないか?というウワサがあります。
総務省管轄の留学生受け入れに関して、外務省が手をまわして受入率を著しく制限したという話を、とある政治筋から入手しました。
総務省の入国管理局が、出入国在留管理庁へ格上げされることもあり、イニシアチブを奪われまいとする外務省の立場が伺えます。
4.現地における日本語教育が最大の課題
今後の課題は、現地での日本語教育の質を担保することです。
『特定技能』の受け入れ日本語レベルは、おそらくN4相当になると思われます。
ただ、実際にN4レベルで来日したとしても、まともな仕事は任せられません。
なるべく会話練習を多く行い、業務で使用する用語や表現については、事前に慣れてもらう必要があります。
AIを利用したアダプティブラーニング、e-learningとライブ通信とのブレンディッドラーニングなど、効率的な日本語学習方法の誕生が望まれます。
5.労働者向けの新しい日本語テスト ~まとめ~
いかがでしたか?
今回の新しい日本語試験は、TITP(技能実習)と特定技能の受け入れにあたって、最低限の日本語能力を保証しようという取り組みです。
重要なことは、現地での日本語教育体制を早期に確立することでしょう。
また、特に介護分野で顕著になると思いますが、同じ”介護職”でありながら、在留資格「介護」と在留資格「技能実習または特定技能」では、日本語力や介護スキルが雲泥の差になるはずです。
そうすると、「技能実習または特定技能」は、誰もやりたがらないような業務だけをこなす役割になっていくでしょう。
日本人>在留資格「介護」>在留資格「技能実習または特定技能」という序列ができることは容易に想像できます。
今のうちから、これに対しては視野に入れて動いておいた方がよいでしょう。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました!