すでにニュースで報道されているとおり、法務省の入国管理局が、2019年4月をめどに法務省の外局となる出入国在留管理庁として格上げされることになりそうですね。(されました)
2018年7月24日に検討を始めたこの件。
外国人労働者の受け入れ拡大のため、新たな在留資格の創設を検討している政府は24日、関係閣僚会議を開いた。安倍晋三首相は会議で、法務省が受け入れ環境整備の総合調整を行うことを明らかにし、同省に「在留外国人の増加に対応するため、組織体制を抜本的に見直す」ことを求めた。これを受けて、上川陽子法相は会見で法務省に「入国管理庁」などの外局を設置し、現在の入国管理局を「格上げ」することを含め、検討に入ったことを明らかにした。(朝日新聞デジタル)
2018年8月27日には、早々に内容が決まりました。
法務省は来年4月から入国管理局を格上げし、「入国在留管理庁」(仮称)を設ける方針を固めた。入国審査官らを約320人増員し、5千人超えの組織にする方針で、秋の臨時国会に関連法案を提出する。また、増員費用を含め、外国人の受け入れ拡大に伴う事業費として来年度予算の概算要求に約30億円を計上する。(朝日新聞デジタル)
一連の背景には、入管のキャパオーバー、不法滞在、移民問題などが複雑に絡み合っています。今回は、このニュースについて、解説していきます。
1.入国管理局(旧)とは?
※こちらの内容は、出入国在留管理庁に格上げされる前の内容ですので、ご注意ください。
業務① 出入国管理業務とは
出入国審査業務とは、外国人が日本へ上陸できるかを審査し、問題がなければ上陸を許可するという業務です。いわゆる入国審査のことですね。
成田空港などの国際線のある空港で、外国人が並んでいるのを見たことがありませんか?
クルーズ船が寄港するターミナルなどでも、出入国管理業務が行われています。
上陸を許可するかどうかは、パスポートや出入国カードに基づき、来日目的などを聞き取ることで判断します。
業務② 在留審査業務とは
在留審査業務は、これから日本に居住する外国人と、すでに居住していて引続き滞在したいと考える外国人の適格性をチェックする業務です。
日本では、外国人が90日を超える滞在をするためには、「在留資格」(いわゆるビザ)を取得しなければなりません。全部で27種類の在留資格がありますが、それぞれに取得要件が定められています。
たとえば、日本人と結婚した場合には、「日本人の配偶者等」という在留資格で居住することが一般的ですが、日本人と結婚していることはもちろんですが、偽装結婚ではないことを証明しないと、取得ができません。
このようなチェックを行い、在留資格の許可処分を行う業務が、在留審査業務です。犯罪を企むような外国人の入国や滞在を水際で防ぐ、大変重要な意味を持つお仕事です。
2.入国管理局(旧)はすでにキャパオーバー
入国管理局は、外国人が不法に日本へ滞在することを、水際で防ぐ職業といえます。
犯罪を未然に防ぎ、日本の治安を維持するという、とても重要な役割を担っているのです。
一方で、当たり前ですが、入国管理局のお仕事は外国人が増えれば増えるほど、業務量も比例して増えます。
それでは、近年外国人が増えている中で、入国管理局の業務量はどうなのでしょうか?
実は、すでに入国管理局はキャパシティオーバーで、業務の随所に支障が表れているという危機的状況にあるんです。
2012年、入国管理局は約3900人の体制で運用されていました。
2017年は、約4800人での運用です。
この数字をよ~く見ていただき、この先を読み進めてください。
原因1 インバウンドの増加
ここ数年、過去最高を記録し続けていますが、驚くべきはその伸び率ですね。
2012年からわずか5年で、3.5倍にまで増加しています!
今後の予想は、専門家によって意見が分かれるところですが、共通するのは、2020年の東京オリンピックの年までは、増加傾向が続くだろうということ。
政府は、2020年には、4000万人のインバウンドに来日してもらうことを目標として掲げています。
インバウンドとして入国し、不法滞在する外国人も少なからずいます。
近年では、このケースに該当するのは、特に韓国人が多いようです。
もちろん、これも入国管理局の業務を増やす原因となります。
原因2 技能実習生の増加と拡大
3K職種の事業者からすると、日本人の労働力が集まりづらい中、外国人なら喜んで仕事をしてくれるので、技能実習制度は大変ありがたい制度です。
政府も、技能実習制度については後押しを続けています。
2017年11月には、技能実習制度の拡大が図られ、介護が対象職種に含まれただけでなく、最長の滞在期間が3年から5年に延長されました。
さらに2019年4月に、新しい在留資格「特定技能(仮)」が創設されますが、これは実質的に技能実習の拡充という側面があります。
すでに25万8000人に登る技能実習生がいますが、政府は2025年度までに特定技能による外国人労働者を、50万人受け入れ増員するプランを打ち出しています。
一部の企業による、技能実習生への待遇のひどさは、時折ニュースになります。
環境に耐えられなくなった技能実習生が、実習先企業から逃げ出し、不法滞在につながるケースが後を絶ちません。
原因3 留学生の増加と混乱
留学生30万人計画とは、2020年までに留学生を30万人まで増やし、かつ、卒業生の50%以上が日本企業へ就職することを目標としたプログラムのことです。
2017年には26万人を突破し、留学生数の目標達成は、ほぼ確実視されています。
留学生数も伸び率を見ると、2012年から2017年の間で約2倍に増えていますよね!
ところで、留学生30万人計画が打ち出されたのは、第二次福田内閣の2008年です。
留学生の総数を見ると、なぜか2013年から急激に増えていると思いませんか?
このタイムラグはなんなんでしょう?
こちらの図解をご覧ください。
お気づきでしょうか?
そう、2013年度からベトナムとネパールからの留学生が、急激に増えているのです。
そこで、白羽の矢が立ったのが、ベトナムとネパールの留学生でした。
ところが問題があって、中国の学生に比べて、彼らは日本語力が相対的に低いんですね。
これは、能力の優劣ではなく、日常から漢字を使う中国の学生に対して、漢字を使わない生活文化の学生の方が、日本語習熟にかかるハードルが上がってしまうということです。
日本語力が低い留学生
本来であれば、日本語力が極端に低い外国人学生は、日本に留学できません。
なぜならば、大学等における高度な授業についていくことが難しいためです。
にもかかわらず、実際には日本語力の低いベトナム人留学生・ネパール留学生の受入を許容してしまいました。この原因は、いったい何なのでしょうか?
その原因こそ、入国管理局のキャパシティオーバーにあるのです。
本来あるべきチェック体制とは?
つまり、日本語がある程度身に付いて、勉学に励むことができる留学生を受け入れるためには、まずは日本語学校の体制が正常かどうかという監視が必須ということになります。
以前は、日本語教育振興協会(日進協)という組織が、3年に一度、日本語学校への立入調査をしていました。要は、日進協が日本語学校そのものの体制をチェックし、その後、入国管理局が日本語学校が出した来日許可に対してもチェックするという協力体制が構築できていたんですね。
ところが、2010年に民主党(当時)による事業仕分けがあって、日進協の立入検査業務権限がはく奪されました。日本語学校の体制チェックは、キャパオーバーの入国管理局に業務移管されたのです。
その結果、実質的に日本語学校へのチェックが甘くなってしまいました。入国管理局は、日本語学校の体制チェックまで手が回りませんから、各学校のセルフチェックに頼らざるを得ないという、とんでもない状況になっているのです。
出稼ぎ留学生の増加
出稼ぎ留学生とは、日本で勉強する意思はほとんどなく、初めからアルバイトをしてお金を稼ぐ目的で来日する外国人のことをいいます。
私たち日本人に実害はありませんが、日本で大変過酷な環境にさらされることが多く、日本に対する印象が大変悪くなって帰国する学生が多いのです。
将来的なことを考えれば、日本の国際的なプレゼンスをますます低下させる要因になりかねません。
ここ数年、出稼ぎ留学生が急増しましたが、その発端は事業仕分けだったというお話です。
出稼ぎ留学生の末路
出稼ぎ留学生は、進学する先がなくなったら帰国するしか選択肢がありません。出稼ぎ留学生が正社員として働ける可能性は、現行制度の下ではほぼ皆無です。
じつは近年、出稼ぎ留学生が日本での在留を延長するために、難民申請をするケースが激増しています。難民申請している間は、日本に滞在して働くことができる上に、不許可になっても何度でも再申請を行うことができるのです。
おそらく、留学エージェントが指南しているのでしょうが、これも入管業務が圧迫される要因の一つです。
※平成29年度の難民認定数に関しては、こちらをご覧ください(外部リンク)。
3.出入国在留管理庁への期待
いかがでしたか?
入国管理局がキャパオーバーであることは、十分にご理解いただけたと思います。
その状態が国内の治安悪化につながることも、お分かり頂けたのではないでしょうか。
新聞やニュースでは、2019年の新在留資格創設(特定技能)に対応するために出入国在留管理庁へ格上げすることが強調されています。
出入国在留管理庁へ格上げすることで、期待できる効果は次の通りです。
①キャパシティオーバーの状態が緩和され、適正な業務運営がなされる
②結果、新たに受け入れるブルーカラー外国人労働者への対応が適切に行える
これを見て、次のような疑問は生じないでしょうか?
なんで今までキャパオーバーの状況を容認していたのに、ブルーカラー受入が始まるタイミングで、庁に格上げするんだろう?
①かなりの数の労働者を受け入れるつもり(50万人)
②この人たちについては、不法在留を認めることは絶対にできない
3K職種への、外国人労働受入は、欧州での失敗事例があります。
現地人がやりたがらない仕事を、安月給で請け負う外国人労働者たち。
その状況は、現地人の外国人労働者に対する、心理的優位性を生む要因になります。
結果、差別が生じ、対立が生じ、争いが生じ、治安が大幅に悪化しました。
ドイツのメルケル首相は、2004年と2010年に、次のような発言をしています。
「多文化主義は完全に(見事に)失敗した」と。
安倍首相は、今回のブルーカラー外国人労働者の受入は、移民受入ではないことを強調しています。
…確かにその通りです。
日本政府は、ブルーカラー労働者が日本に定住することを、許可していません。
永住許可は絶対にしない、といっている。
※1年を超える定住を恒常的移住と定義する、IOMの移民定義にはあてはまります。
最も恐れているシナリオは、多くのブルーカラー外国人労働者が不法滞在という形で定住することです。
それは、欧州が辿った破滅の道を、日本も歩むことにつながるからですね。
最後に申し上げたいのは、入国管理局はあくまでも「チェック機関」に過ぎないこと。
「チェック項目の作成機関」ではない、ということです。
そもそもの政策が間違っていれば、日本は緩やかに衰退の道を歩み続けます。
局を庁に格上げしたところで、抜本的な解決にはならないことを忘れてはいけません。
ブルーカラー外国人労働者の受入が中長期方針として正しいことなのか?
そして、そのうえで彼らへの対応が人道的に正しいものなのかどうか?
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました!